「有事の金は安全、は本当?」
そんな“神話”を信じていませんか?その思い込みが、大きな損失を招くかもしれません。地政学リスクが高まる中、「有事の金」に期待して投資を検討している方も多いでしょう。しかし、過去の湾岸戦争で金価格が「開戦と同時に暴落した」という事実をご存じでしょうか?
この記事を読めば、「有事=金高騰」という単純な神話の裏に潜むリスクと、本当の価格変動メカニズムを歴史から学ぶことができます。「噂で買って事実で売る」という市場心理、「リスクプレミアムの剥落」という専門的な概念、そして当時のスタグフレーション懸念まで、価格変動の要因を徹底的に解き明かします。
なぜ湾岸戦争という過去の出来事が、現代の金価格を考える上で最高の教訓となるのでしょうか。本記事は、当時の市場データや、みずほリサーチ、楽天証券などの金融機関・報道機関の分析レポートに基づき、客観的な事実を解説します。
この記事でわかること
- 湾岸戦争で金価格が「暴落」した本当の理由
- 「噂で買って事実で売る」という市場心理の正体
- 「リスクプレミアムの剥落」の仕組みがわかる
- 現代の地政学リスク下で活かせる投資の教訓


湾岸戦争で金価格はどう動いた?実際のチャート推移
「有事の金」という言葉から、湾岸戦争の期間中、金価格は一貫して上昇したと想像するかもしれません。しかし、実際のチャートは全く異なる動きを見せました。ここでは、具体的な時系列に沿って価格の推移を追っていきます。
【1990年8月】クウェート侵攻で金価格は急騰
1990年8月2日、イラクが隣国クウェートに侵攻したことで、中東情勢は一気に緊迫化しました。この「予測不能な危機」の発生に、市場は即座に反応します。
不安感の高まりがリスクプレミアムを形成
世界経済の先行きに対する極度の不安感から、投資家は安全資産へと資金を逃避させました。その代表格が「金」です。
この結果、金価格は急騰し、1トロイオンスあたり約415ドルの高値を記録しました。この価格上昇分には、戦争という不確実性に対する「リスクプレミアム」が大きく含まれていたと考えられます。(出典: 楽天証券トウシル)
【1991年1月】多国籍軍の攻撃開始で金価格は暴落
クウェート侵攻から約5ヶ月半後、1991年1月17日にアメリカを中心とする多国籍軍がイラクへの空爆を開始し、湾岸戦争が勃発しました。
多くの人が金価格のさらなる高騰を予想しましたが、現実はその逆でした。
わずか数日で10%以上の下落
開戦を合図に、金価格は1トロイオンスあたり約390ドル前後まで急落しました。これは、わずか数日で10%以上も価格が下落したことを意味します。
この現象は、多くの投資家にとって衝撃的な出来事となり、「有事の金」という神話に大きな疑問を投げかけるきっかけとなりました。(出典: カイトリッチ, みんかぶ)
【比較】当時の原油価格の動きとの連動性
湾岸戦争時の金価格を分析する上で、原油価格の動きは欠かせません。
開戦までは連動、開戦後は共に下落
クウェート侵攻後、中東からの原油供給不安が高まり、原油価格(WTI先物)は金価格と共に急騰し、一時40ドル近くまで上昇しました。
この時点では、金と原油は「地政学リスクの高まり」という共通の要因で連動していたと言えます。
しかし、湾岸戦争が開戦し、戦争が早期に終結するとの見通しが強まると、市場の不安は後退。原油価格も金価格と同様に急落しました。
このことから、当時の金価格は、インフレヘッジ資産としてよりも、地政学リスクを直接反映する資産として動いていた側面が強いことがうかがえます。(出典: エネルギー経済研究所)
チャートの動きを冷静に見てみると、「有事だから金が上がる」という単純な公式が、いかに危険な思い込みであるかが分かります。実際には、「どのような有事か」「市場がそれをどう織り込んでいるか」によって、価格は正反対の動きすら見せるのです。
この歴史的な事実は、現代の私たちが地政学リスクと向き合う上で、非常に重要な示唆を与えてくれますね。
なぜ開戦と同時に暴落?「噂で買って事実で売る」という市場心理
湾岸戦争時の金価格の動きは、相場の格言である「噂で買って事実で売る」を理解するための絶好のケーススタディです。ここでは、なぜこのような市場心理が働き、価格暴落に繋がったのかを解説します。
【用語解説】「噂で買って事実で売る」とは
相場の世界で古くから言われている格言の一つで、英語では「Buy the rumor, sell the fact」と言います。
これは、市場がまだ不確実な「噂」や「期待」の段階で価格が先行して動き、そのイベントが実際に「事実」として確定・発表されると、材料が出尽くしたと見なされて、逆に価格が下落する現象を指します。
なぜ湾岸戦争が典型例と言われるのか
湾岸戦争時の金価格の動きは、この格言を完璧に体現しています。
勃発前の「噂」:不確実性への恐怖
1990年8月のクウェート侵攻から1991年1月の開戦までの約5ヶ月間は、市場にとって「いつ戦争が始まるかわからない」「どのような規模になるか予測できない」という極度の不確実性(噂)に満ちた期間でした。
投資家はこの「わからない」という恐怖から、保険として金を買い進め、価格は上昇しました。
開戦という「事実」:材料の出尽くし
しかし、1月17日に多国籍軍が攻撃を開始したことで、「戦争」は不確実な噂から、確定した事実に変わりました。
この瞬間、市場の最大の関心事であった「いつ開戦するか」という問いが解消され、材料が出尽くしたと判断されました。その結果、噂の段階で金を買っていた投資家たちが一斉に利益確定の売りに走り、価格は暴落したのです。(出典: nanboya)
【用語解説】リスクプレミアムの剥落とは
「噂で買って事実で売る」という現象を、金融の専門用語で説明したものが「リスクプレミアムの剥落」です。
不安という名の「保険料」が消滅するメカニズム
リスクプレミアムとは、将来の不確実性(リスク)に対して、投資家が資産に上乗せして要求する追加的なリターンのことです。
湾岸戦争のケースでは、「戦争が起こるかもしれない」という不安に対する保険料のようなものが、金価格に上乗せされていました。
しかし、開戦という「事実」が確定したことで、戦争の行方がある程度予測可能になり、市場の過度な不安は後退しました。
これにより、金価格に上乗せされていた「保険料(リスクプレミアム)」はもはや不要と見なされ、一気に剥がれ落ちたのです。これが、開戦と同時に金価格が急落したメカニズムです。(出典: ブランドリバリュー)
「有事の金」は本当に安全資産か?湾岸戦争が示した3つの教訓
湾岸戦争の事例は、「有事の金」という言葉を鵜呑みにすることの危険性を示しました。ここでは、この歴史的な出来事から私たちが学ぶべき3つの重要な教訓について掘り下げていきます。
教訓1:”有事”の種類とタイミングを見極める
すべての「有事」が金価格を上昇させるわけではありません。湾岸戦争の教訓は、「有事の種類」と「市場がどのタイミングにあるか」を見極める重要性を示しています。
短期決戦の見通しが与えた影響(砂漠の嵐作戦)
湾岸戦争では、多国籍軍による圧倒的な軍事作戦(砂漠の嵐作戦)により、戦争が短期で終結するとの見通しが早期に市場に広がりました。これにより、長期的な世界経済の混乱への懸念が後退し、リスクプレミアムのさらなる剥落を促しました。
もし、戦争が泥沼化し、長期化するとの見方が優勢であれば、金価格はまた異なる動きを見せた可能性があります。
教訓2:スタグフレーション懸念と金価格の関係
「有事」が金価格に与える影響を考える上で、インフレ、特にスタグフレーションとの関係は無視できません。
【用語解説】スタグフレーション
景気が後退しているにもかかわらず、物価の上昇(インフレーション)が続く状態のことです。
通常、景気が悪化すれば物価は下落しますが、供給制約(例: 原油価格の高騰)などが原因で、景気後退とインフレが同時に進行することがあります。
原油価格の急騰がもたらしたインフレ懸念
湾岸戦争前には、原油価格の急騰によって世界的なスタグフレーションへの懸念が高まり、インフレヘッジ(物価上昇による資産価値の目減りを防ぐ)の手段として金が買われる側面もありました。
しかし、戦争の短期終結によって原油価格も急落したため、スタグフレーション懸念も後退し、金価格を押し下げる一因となりました。(出典: みずほリサーチ)
教訓3:「安全資産」の主役は金だけではない
「有事」の際に資金が向かう「安全資産」は、必ずしも金だけとは限りません。その時々の経済状況によって、主役は変わることがあります。
90年代に台頭した「ドル」という最強の安全資産
湾岸戦争後、1990年代を通じて金価格は長期的に低迷しました。その背景には、当時の米国が高い金利を維持しており、金利を生まない金よりも、高い金利が付く「米ドル」や「米国債」が、より魅力的な安全資産と見なされたことがあります。
この時期、「有事のドル買い」という言葉が定着し、金の安全資産としての地位は相対的に低下しました。(出典: 三菱マテリアル)
「安全資産」と一括りにせず、その時々で「何が最も安全と見なされているか?」を冷静に分析する必要がある、ということですね。湾岸戦争後は「強いアメリカ」の象徴であるドルが選ばれましたが、近年のようにそのドルへの信認が揺らぐ状況では、再び金の価値が見直される、というように、安全資産の主役は時代と共に移り変わるものだと感じます。
現代への応用:ウクライナ侵攻と湾岸戦争の金価格の動きを比較
湾岸戦争の教訓は、現代の地政学リスクと金価格の動向を読み解く上で、どのような示唆を与えてくれるのでしょうか。ここでは、近年のウクライナ侵攻や中東情勢との比較を通じて、その共通点と相違点を分析します。
【共通点】侵攻直後の短期的な価格上昇
2022年のロシアによるウクライナ侵攻直後、金価格は一時的に急騰しました。
これは、湾岸戦争時のクウェート侵攻直後と同様に、予測不能な危機発生に対する市場の初期反応として、「リスクプレミアム」が価格に上乗せされた結果と見ることができます。
【相違点】その後の価格推移と背景
しかし、その後の価格推移は湾岸戦争時とは異なる様相を呈しています。
相違点1:中央銀行のドル離れと金買い
湾岸戦争後と現代の最も大きな違いは、米ドルに対する世界の信認です。ウクライナ侵攻後、西側諸国がロシアのドル資産を凍結したことは、多くの国々に「ドル依存のリスク」を強く認識させました。
その結果、外貨準備としてドルを減らし、特定の国に依存しない「無国籍資産」である金を買い増す動きが世界の中央銀行で加速しています。この構造的な買いが、金価格の強力な下支え要因となっています。
相違点2:長期化する紛争と市場の「慣れ」
湾岸戦争が短期で終結したのに対し、ウクライナ侵攻は長期化しています。紛争が長期化すると、市場はそのリスクに「慣れ」が生じ、当初ほど価格を押し上げる要因とはならなくなります。
実際、ウクライナ侵攻後、金価格は高値を維持しつつも、リスクプレミアムの剥落や、各国の金融政策といった他の要因に影響される場面が多く見られます。


まとめ
本記事では、「湾岸 戦争 金 価格」をテーマに、過去の歴史から現代の投資家が学ぶべき教訓を深掘りしました。最後に、本記事の要点を振り返りましょう。
【総復習】湾岸戦争の金価格変動から学ぶべき3つの教訓
- 教訓1:「噂」で動き「事実」で終わる市場心理を理解する
- 金価格は、不確実な「噂」や「不安」がピークに達する時に最も上昇し、事態が「事実」として確定すると、材料出尽くしで売られる傾向がある。
- 教訓2:「リスクプレミアム」の性質を知る
- 有事の価格上昇には「リスクプレミアム」という保険料が含まれている。このプレミアムは、事態が明確になると急速に剥落し、価格暴落を引き起こす可能性がある。
- 教訓3:「有事の金」を過信せず、多角的な視点を持つ
- 「有事の金」は絶対的な法則ではない。その時々の国際情勢や金融環境によって、ドルなど他の資産が安全資産として選ばれることもある。
湾岸戦争の事例は、地政学リスクと金価格の関係が一筋縄ではいかないことを教えてくれます。歴史から学び、市場心理を読み解くことで、目先のニュースに惑わされない、より賢明な投資判断が可能になるでしょう。
▼次のステップ:現在の地政学リスクをニュースで追う
過去の教訓を学んだ後は、現在の国際情勢を正確に把握することが重要です。ロイターなどのニュースソースを活用し、次のリスクに備える方法を学びましょう。
→ ロイターで金相場を読む方法とは?ニュースや予想から市場動向を掴むコツ




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